ベンチャー企業社長の挑戦、そして苦闘

サン・アクト株式会社というベンチャー企業の社長が語ります。

モノが捨てられない工夫

さて、今日、私が卒業した米国のビジネススクールから卒業生向けの季刊誌が届きました。

いつも60ページ程はあるかなりのものです。卒業生の動向やビジネススクールの状況についても掲載されていますが、ほとんどのページは海外の動きやビジネスに関することです。

しかし、この季刊誌に随所に掲載されているもの、それが「卒業生への寄付金のお願い」です。

私の母校は大学院だけで、かつ私立のため卒業生や企業からの寄付金が学校運営に大きな役割を果たしています。最近は「60億円もの巨額な寄付」をされた方がおられるそうで、我が母校の校名も寄付された方の名前に変わってしまいました。当たり前なのかもしれませんが。

そういえば、Thunderbird Annual Fund(卒業生への寄付金のお願いといった意味合い)の手紙が数週間前に母校から来ていたなぁと思い出し、封を開けてみました。

年に数回は寄付に関するレターが来るのですが、寄付をしたこともなく、上述した「60億円の寄付をされた方」に、我々の会社に先に寄付して欲しかったなと思っているくらいの不良な卒業生の私ですので、いつも机の上に置いたままです。

(もう少しして、寄付ができるような人間になってからは、きちんと卒業生として恩返しをする「予定」ですので、関係者の皆様、ご理解下さい。)

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さて、今回のレターはよく見るといつもと形状が違いました。普通は、三つ折りされた用紙に寄付金額や支払方法を記入し返送といった味気ないものなのですが、今回は少々、封筒に厚みがありました。

中をあけてみると、Reply Form(返信用記入欄)と書かれた表紙がついたちょうど葉書サイズ程のかなり枚数のあるメモ帳が入っています。表紙だけ外して返送すれば良いということです。この表紙をめくってみると、メモ帳一枚一枚に母校の風景が薄くきれいに印刷されています。そして驚いたのは私の名前がすべてのページにローマ字で印字されているということです。

名前を印字することはシステム的にそんなに難しいことでもなく、またコスト的にも寄付金との収支バランスはとれるとの判断での今回の母校の試みだとは思います。

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今も昔も、自社製品の紹介を兼ねたカレンダーや手帳などを企業が販促用として配っています。もちろん他の販促手法を用いた企業もありますが、季節になるとカレンダーが山のように私のところへ押し寄せてきます。少なくとも私からするとモノを買おうという購買意欲はこれらの販促物からは生まれてきません。

しかし、今回の母校からのメモ帳。どうも捨てることはできません。またメモ帳として使おうとも思うことができません。何か心に響く、残るものがあります。単なる母校の風景と自分の名前が印刷されているだけなのですが。

残念ながら、このメモ帳で寄付をしようかとまでには至りませんが、卒業生の心に残る仕掛けはないかと母校側が考えた思いは伝わってきました。そして私はこのメモ帳を机の引出しにでもずっと大切にしまっておくと思います。

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このメモ帳は、企業にとっての販促のあり方などのアイデアにもつながります。そして、簡単に捨てられない工夫としても一考の価値があるのかなとも思います。

ゴミ対策としてゴミがよく捨てられて困る場所に「ミニ鳥居」を設置するという試みがあります。「ゴミを捨てないで」という看板設置よりも費用も安くかつ効果も高い、なかには行政の方が手作りしたミニ鳥居も効果を上げているようです。これも「心に訴えること」を意識したものでしょう。これでも捨てる人はお構いなしではありますが。

ただ、人それぞれ心に響くものが必ずあると思います。何が人の心を動かすかをつかむことは非常に難しいことです。また心を動かす仕組み自体をつくることも難しいと言えます。しかし、あまり難しく考えず、今回のメモ帳のようにちょっとした工夫で人の心は動くものなのかもしれないなと感じさせられた今日の出来事でした。

何となくビジネスにも応用が可能なエピソードであるかもしれません。ご参考までに。