ベンチャー企業社長の挑戦、そして苦闘

サン・アクト株式会社というベンチャー企業の社長が語ります。

MBAでは絶対に教えてくれないこと:成功者の告白

成功者の告白 5年間の起業ノウハウを3時間で学べる物語 成功者の告白 5年間の起業ノウハウを3時間で学べる物語 神田 昌典  通常、個人が起業した場合、「個人事業主から家業・中小企業・大企業」へと変遷していく。その成長スピードには創業者個人の力量が関係する。しかし、この書籍では変遷していく過程においては、どのようなトップであれ、力量や社員数に関係なく、成長を続ける組織体には、それぞれの成長ステージにおいて共通した問題に直面すると指摘している。 現在の書籍の多くは「大企業」の経営管理が舞台となっているから活用できない  MBA、いわゆるビジネススクールで教えられることは「大企業」におけるマネジメント、経営管理が主体だ。しかし、日本だけでなく世界中の国々で「大企業」よりも中小企業や零細企業が数の上では大半を占めていることに間違いは無い。  換言すれば、ビジネススクールで学ぶことができる内容は高度ではあるが、得た知識を実践するためには「大企業という舞台」において上層部での経営が必要になるということだ。私もビジネススクールで学んだが、今の会社規模では留学時代に得た知識は、基本的な経営戦略などについては役立っているが、まだまだ活用するには大きな舞台とは言えない。  また、日本語に訳されているビジネススクールのテキストや、いわゆるコンサルタント・学者が書いた書籍も何十冊と過去に読んだが、ほとんど参考にならず、ここ数年はまったく読んでいない。先に述べたように「大企業」が舞台として想定されているからである。  もちろん、中小企業向けの経営ノウハウに関する書籍も多数、出版されている。ただ、これらの書籍の内容は一部の視点、あるいは少し学べば自ら把握できる情報しか提供されていないことが多いと私は考える。 しかし、この書籍は違った。  この書籍をある場所で見かけた際、過去より著者にあまり好感を持っていなかった私は、また「単なるノウハウ」が書かれているだけかと考えていたが、読了後には、この書籍は「ビジネススクールでは絶対に教えてくれない内容であり、起業を志す方、実際の経営者だけでなく、仕事をする人間、いわゆる組織に存在している人々など経営に関係ない方々にとっても必読の書籍ではないか」と考えた。  ビジネススクールの教授陣にとっては教える必要性すら感じない内容であるにも関わらず、組織運営を行う上で必ず知っておくべき内容と私は考えている。  この書籍では、組織体は成長ステージの過程で経営者、社員、経営者や社員の家族などに次のような問題が必ずといって良いほど、直面すると指摘している。
1)成功の頂点で大事故にあったり、病気になったり。さらには病死も。 2)脚光を浴び、マスコミにもてはやされるなか、家族が事故や病気に。 3)成功者として本を出版したとたん、会社の業績が急降下。 4)カリスマ経営者の家庭は破綻。夫婦別居で、愛人がそこらじゅうに。 5)業績をあげればあげるほど、組織の問題が大きくなっていく。 6)社内混乱の引き金を引くのは、意外にも社長が一番信頼している右腕社員。 7)ストレスが原因で社員が連続して急に倒れる事態が生じる。 8)創業時からイエスマンばかりのため、優秀であっても異分子は弾き飛ばされやすい。
 皆さんが属されている企業や組織体で、このような経験・事象は無いだろうか。  このように、経営戦略やマネジメントではない、まったく違った視点での指摘にも関わらず、実際に企業・組織体で発生している事象がこの書籍の中心だ。もし一つでも該当するものがあれば、解決策がこの書籍に一つのストーリーとして描かれている。  有名な上場ベンチャー企業の経営者の家族は本当に円満だろうか。経営者が芸能関係の方と結婚し、数年後には離婚したという話をたまに聞く。もしかすれば、著名なベンチャー企業の社長の一部の家庭は円満で無い可能性があるかもしれない。  著名なベンチャー企業の成長ステージの過程で社員の健康や精神状態に変化はないだろうか。どこかのステージで組織内部に歪が生じている可能性は少なからずあるだろう。実際に社員の健康や精神状態だけがすべての要因では無いとしても、様々な歪によって破綻した事例もあるだろう。  しかし、メディアなどではこういった裏側の話はほとんど報じられない。戦略や戦術の失敗などしか語られない。しかし、先に述べたように、この書籍では、成長ステージのいずれかの段階で、経営者の家庭の問題、社員の健康・精神的な問題が必ず露呈すると断言している。これらの問題も少なからず企業運営に悪影響を及ぼしていると言えるのではないだろうか。  私や私の会社でも過去にいくつかの問題に直面した経験があると同時に、現在も直面している課題もある。よって、経営者はもちろん、社員の方々、組織に属する方とその家族それぞれが、これらの課題が発生する理由、そして対処法について知っておかなければならないと私は思う。まさに経営を超えた人生・生活の一部とも言えるが、会社や組織は人生や生活の一部であり、切り離して考えることはできないだろう。この点にこの書籍は着目しているわけである。  また、少し視点を変えてみよう。 社長への依存からの脱却こそが「大企業」  売上高が例えば1000億円ならば大企業なのだろうか。売上高1000億円の企業であればMBAで得た知識は確実に企業運営に活用されるのだろうか。私はそうは思わない。  売上高の規模はともかく、少なくとも日本の企業では「社長」への依存度がかなり大きい。いわゆる「創業者への依存」というものだ。創業者の努力により、個人事業主から中小企業、そして規模こそ大企業並みになったとしても、創業者がいなくなれば、その企業は突如として空中分解する可能性を秘めていると私は考える。換言すれば、創業者が引退、あるいは年齢の関係で死去したとしても、創業当時のDNAが受け継がれている企業のみが「大企業」足り得ると私は思う。  もちろん長い社歴を持ち、誰が社長になっても経営に変化は無い「大企業」も存在する。しかし、そんな「大企業」が「優良企業」かどうかは別の問題である。このような「大企業」もちょっとした外部要因の変化で「空中分解・破綻」する可能性は捨て切れない。  また、少し視点を変えてみよう。 ソニーも「家業」からまだ脱却できていないのかもしれない  ホンダと言えば、「本田宗一郎氏」であり「藤沢武夫氏」である。このお二人の存在が今のホンダを築き上げたことは多くの方がご存知のはずだ。そして、ソニーと言えば、「盛田昭夫氏」であり「井深大氏」である。このお二人がいなければソニーはあり得なかった。  しかし、ソニーには創業者、そしてそれを支える相方の存在が今も重くのしかかっているという記事を見た。以下、「残像と戦っていた出井改革 (時流超流):NBonline(日経ビジネス オンライン)」より一部引用する。
井深大盛田昭夫。燦然と輝く2人の創業者の理念。 その残像が変化を拒む人々の拠り所となり、変革者を苦しめた。 会長兼CEO退任から2年半。出井伸之が「改革の真実」を語った。 (一部割愛:以下、ミセスとは盛田昭夫氏の妻をいう)  創業家を大切にしないのは自分の親にツバするようなもの。創業者がいなかったら、会社は存在しない。自分がCEOの頃は、定期的にミセスと食事をして、事業の節目ではちゃんと説明に行ったが、経営に口を出されることはなかった。  例えば、ソニー生命保険の売却を検討した時、ミセスはすぐに「あれは確かに主人が作った会社ですけど、主人の時代は主人の時代。出井さんがお売りになるというのであれば、それで構いません」と言ってくれた。  それでも情がつながる大切さというのはある。ハワードはアメリカ人だけど、私のやり方を見てきたから、そこはちゃんと分かっている。  (一部割愛)  ソニー初の「専門的経営者」である出井には、もう1つ越えねばならぬ壁があった。求心力の問題である。  専門的経営者が一番担保できないのは求心力。創業家の人間は黙っていても求心力を持つが、専門的経営者にはそれがない。  (一部割愛)  「盛田さんは私たちのヒーローでした」。99年11月、昭夫の合同葬の弔辞で出井自身がこう読み上げたように、盛田や井深は黙ってそこにいるだけで強烈なオーラを放つカリスマだった。社員は彼らの笑顔が見たい一心で、懸命に働いた。  出井にはそれがない。出井の言う専門的経営者とは、つまり「サラリーマン社長」。  (一部割愛)  「この前、30~40代の社員に盛田時代の話をしたら、『そんな話は聞いたことがない』と言う。井深、盛田の精神の語り部がソニーの中にいなくなったからだろう」  井深・盛田を強く意識するのは出井の世代までであり、謦咳に接してはいない社長の中鉢良治や副社長の井原勝美は、創業家の呪縛に悩むこともない。
 記事中にあるように、出井氏は「専門的経営者」である。まさにMBAで得られるような知識を活用し、ソニーという大きな船の舵取りを行われた。しかし、そこには出井氏すら直面する課題があった。これが強烈な創業者が唯一、持ち得る「求心力」だ。  このようにソニーさえ、形こそは「大企業」であるとしても、おこがましい物言いだが、創業者からの脱却という別の視点からは「家業」から離れられていないと言えるかもしれない。記事中では、現在の経営世代には「創業者の呪縛」に悩むことはないと書かれているが、果たして本当かどうか。それほど経営とは難しいものだ。  いずれにせよ、創業者だけでなく、企業が成長するステージにおいてはそれぞれ違った役割を果たす人物が欠かせないと、この書籍は指摘する。それが桃太郎の話だ。「盛田昭夫氏」と「井深大氏」だけでは必要な役割を果たす人物が揃っていないとも言える。もちろんソニーには以下に示すような役割を担う人々が時代や企業規模の変化に沿って存在していたはずだ。 桃太郎の話  この書籍では組織体運営に欠かせない役割を桃太郎の話を例に挙げている。以下に引用する。  
 桃太郎は、鬼が島に鬼退治に出かけようというアイデアを思いつく。アイデアを思いつく桃太郎は起業家だ。桃太郎が歩いていくと、そこにイヌが鬼退治に加わる。イヌは主人に忠実に尽くすので実務家。次に、サルが鬼退治に加わる。サルは智恵の象徴。システム化が重要な仕事である管理者の役割。最後にキジ。キジは愛と勇気の象徴。グループ全体をまとめ上げる役。  このように、桃太郎の物語を会社経営になぞらえると、起業家・桃太郎が鬼退治をするというミッションをもって、実務家、管理者、まとめ役に出会い、最終的に宝を持ち帰るということなんだよ。会社経営においても、桃太郎の物語と似たような順番で必要な役割を登用し、事業を成長させていくんだ。
 引用文のように、起業家は当初、必ず存在する。しかし事業に邁進する起業家にはそれを支える実務家がいずれ必要となる。そうでなければ事務処理など欠かせない業務が滞留してしまう。しかし、企業規模が大きくなるにつれ、実務家個人の能力の限界に達する。その際に必要な役割が、実務そのものを円滑に運営・システム化する管理者だ。しかし、それ以上、企業規模が大きくなると先に述べた異分子による組織分裂やストレスが原因で体調を崩す社員が出てくる。その橋渡し、時には受け皿になる役割がまとめ役だ。  これら起業家と共に3つの役割を担える能力を持つ人間を成長ステージに応じて登用することで、先に述べた会社が必ず直面する課題を克服できる可能性が高いと、この書籍は述べている。  いずれにせよ、この書籍でも述べられているが成功するためには、一個人の力量だけでは到底、無理であり、多くの人々の犠牲と献身によって成り立っていることだけはこのエントリでも少しは感じてもらえたと思う。  以上、少なくとも私にとっては極めて参考になる書籍だった。是非とも起業を志す方だけでなく、組織に属する方々、そして、ここで紹介した問題が周辺に発生しているとお考えの方はご一読いただきたい。ストーリー仕立てで読みやすい書籍でもある。  最後に著者があわせて読めばという参考書籍を紹介し、このエントリを終えることとする。 成功して不幸になる人びと ビジネスの成功が、なぜ人生の失敗をよぶのか 成功して不幸になる人びと ビジネスの成功が、なぜ人生の失敗をよぶのか ジョン・オニール ※「ベンチャー社長ブログトップ10位へ ※「特選された多様な起業家ブログ集へ ※「新進気鋭アーティスト:鉄人Honey、下記画像をクリック」