ベンチャー企業社長の挑戦、そして苦闘

サン・アクト株式会社というベンチャー企業の社長が語ります。

少し悲しい話

私の自宅から駐車場まで徒歩1分程度の距離。

通常の通勤時間帯の時、いつも出会う少女がいます。

どちらともなく、毎朝、「おはよう」と挨拶を交わしていました。

「おはよう」の挨拶は彼女が中学生になった頃から。

ちょうど三年前くらいからでした。

彼女は猛スピードで自転車にいつも乗っています。

でも、私を見かけると少しだけスピードを緩め、

「おはようございます」と軽く頭を下げながら、毎日、挨拶をしてくれていました。

そして私も、軽く手をあげて、「おはよう」と一言。

「おはよう」という一言でお互い、一日が始まる、そんな毎日でした。

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彼女は今年になって高校生になりました。

高校生になっても、いつものように通勤時間帯に彼女は自転車に乗っています。

しかし、昔の猛スピードは影をひそめ、片手でゆっくりと走っています。

そして、私の横を通り過ぎる彼女。

残念ながら私なんか目もくれず、

ひたすら片手に持っているモノを見つめながら走っています。

そう、彼女は、高校生になって携帯電話を持つようになりました。

携帯電話を持って、4月から約2ヶ月あまり。

きっと今が一番、楽しい時なのかもしれません。

やっと高校生になって憧れの携帯電話が自分のものになった。

その気持ちは私などでも十分にわかる。

でも憧れの携帯電話によって彼女自身の何かが失われたのかもしれない。

いや失われつつあるのかもしれない。

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毎日、自ら私なんかにでも挨拶してくれていた彼女。

私は挨拶というものは人間が学ぶ最初のコミュニケーション方法の一つだと思っている。

きっと近いうちに彼女は、また挨拶をしてくれると信じたい。

なぜなら、彼女は人間としてのコミュニケーションの方法を知っていたのだから。

その日が来るまで、私は待ち続けたいと思う。

きっとその日は近い。

そして待つ価値がある人間だと思う、彼女なら。

いつか彼女は気付いてくれるだろう、失いつつあるものを。

なぜなら、携帯電話を介して話をするよりも、

一瞬だけでも人と人とが面と向かって話をするほうが得るものは大きいことを

彼女は知っているのだから。

そうでなければ三年間も毎朝、笑顔で挨拶してくれなかった。

今の携帯電話を見つめている彼女には、笑顔はない。

きっと笑顔だった頃の自分を思い出してくれると私は確信している。