ベンチャー企業社長の挑戦、そして苦闘

サン・アクト株式会社というベンチャー企業の社長が語ります。

Centipedeとは何か?

6月下旬の頃、私宛に郵便が届きました。

京都の最も有名な大学から、アンケートの依頼でした。

簡単にまとめると、その大学のある教授の研究室に米国の方が研究員として招聘され、「日米の起業家の比較研究」をテーマとした論文を作成中とのこと。アンケートに答えると同時にヒアリングしたいとの内容でした。

研究員の方は、これまた米国の最も有名な大学で博士号を取得されておられ、「すごいなぁ」と思いながらも、「なぜ我が社なのか?」などと考えながらも、すっかりアンケート回答は忘れていました。

その後、先々週に、直接、私宛にメールが来て、「何とかヒアリングしたいので日程調整お願いしたい」との連絡があり、何度かメールでやりとりをして先週金曜日にお会いすることに。ちなみにここまでのメールのやりとりはすべて博士ご本人ではなく、スタッフ(もちろん日本人)とのやりとりでした。

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さて、いよいよ当日、待ち合わせ場所に行ったのですが、博士ご本人お一人でした。歩きながら、まずは世間話ということで下記のような会話を。

「今日はお一人ですか?」と私。

「えぇ、いつもヒアリングは一人でやっています。」と博士。

「そういえば、博士号をあのような大学で取得されるとは凄いですね。」と私。

「いえいえ、どういたしまして。」と博士。

(なかなか、日本人的な回答の仕方だなと少々、驚きつつも)

「実は私も米国で修士号を取得したんですよ。」と私。

この一言が間違いの原因となってしまいました。

「ということは英語を話すことができるのですね。」と突然、英語で聞く博士。

「とんでもありません、もうすっかり忘れてしまいました」と英語でかなり断定的な表現で否定する私。

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少し話を変えて今の私の英語力について。

英語を読む能力はほとんど衰えていません。留学時代に徹底的に鍛えられて、いわゆる文章をなぞって読むというものではなく、英語の文章全体を俯瞰し、どこがポイントかをある程度、把握できるといった感じです。

聞く能力もほとんど衰えていません。字幕無しで海外の映画を見ても意味は分かりますし、逆に字幕では、「ちょっと要約しすぎではないの?」といった経験もあります。また、会話の中で次に何を言うかも大体、予想がつきます。(日本語なら誰でも次の会話がある程度、予想できることとほぼ一緒です。)

そして、英語を書くことと、話すことは、かなり能力が落ちました。日常生活で英文を書いたり、話すということが皆無に等しいということからだと思います。「読む・聞く」については海外のニュースや映画で、ほぼ一日に一回は必ず経験しているのですが、「書く・話す」については、相手がいなければ、このような行為をする必要も無く、かなりスキルは落ちています。いや、正直にいって、ほとんど能力はないといえるでしょう。

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さて、ヒアリングに戻ります。

兵庫・大阪・京都の各企業、そして米国中西部の3都市の各企業を比較研究するということで、事前にアンケート調査票も私は記入し返送していましたので、ヒアリングは調査項目以外で深く知りたいことを聞くということが目的のようでした。(そういえば調査票もかなり英文が入っていたなといまさらながらにして思う私です。)

よって、会社の基本情報や、地域との連携等は回答済みということで、結局、我々がどういった事業を展開しているのかということがヒアリングのメインとなりました。

博士の日本語能力はかなりのレベルで、最初はすべて日本語でした。しかしメモは英語。これは理解できます。母国語でメモをとる方が早いからでしょう。そして会話の途中で、博士のメモが止まると私の方で英単語で補足すると、「なるほど」といった感じでうなずきながら博士のメモが続いていきます。

しかし、後半になって、我々の事業内容について深く説明していくと突然、博士は英語で話しかけてこられました。博士が何を聞かれているのかは、もちろん私も理解できました。しかし、その回答を英語で行うことは、もはや私の英語力を超越していました。

「このPICUS Sonic Tomographという装置はどういったものなのですか?」と博士。

博士の聞かれていることはわかりました。

「PICUSとは樹木の幹断面を音の伝わる速さの違いを利用し画像化する計測機器です。」とここまでは私も英語で回答することはできました。

もちろん、博士の質問は続きます。

「それで、具体的に何がわかるのでしょうか?」と博士。

的確な回答としては、

「従来の測定手法では幹内部の全容把握は困難でしたが、この装置を使うことによって、断層画像が色分けで表示され、幹内部の腐朽・空洞化が瞬時に目で見て把握可能となりました。また複数の断面画像を取得することによって、腐朽・空洞の拡大方向や範囲が具体的に把握できると同時に数値でも比率が表示されます。」

このような回答をもう少しわかりやすく、話し言葉で営業・商談などで私は説明しているのですが、残念ながら、これらを英語で回答することはとても無理です。

結局、中途半端な英語で説明しながらも、プレゼン資料を見てもらい、やっと博士もご理解いただけたようです。このような英会話ヒアリングがおよそ1時間程度。日本語のみは最初の30分でした。

私も経済・経営関連ならば英語である程度、話すことはできるはずですが、最も大切な我々の事業説明を英語でできなければならないのか、いや現状では必要ではないのか、といった感じでヒアリング後は自問自答していました。結論としては、他にもやるべきことがある(=英語での事業説明は現時点では優先順位が低い)ということで自分なりに納得しましたが。

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さて、かなり苦労したヒアリングも終え、近くの駅まで車で案内した途中の会話です。

「私の家はセンティピードが多くて困っているんです」とまた英語で話しかける博士。

「あぁ、そうですか大変ですね」と私。

(心の中では、センティピードとは何のことかさっぱりわからず少々、あせりながらも)

「そちらのお宅では大丈夫ですか?」と博士。

「えぇ、まったく大丈夫ですよ」と私。

少々、不満げな顔をしながらも博士は地下鉄の入り口からお帰りになりました。

早速、「センティピード」とは何か辞書で調べたのですが、「House Centipede」=「ムカデ」でした。こういう単語も米国滞在時代も使わず、かつ経営・経済にも関係無いので、疎い私です。

ムカデがご自宅に多く出没している博士も大変ですが、突然の英会話ヒアリングに何とも言いようが無い、経験したことの無い変な疲労感を味わった私も大変な一日を過ごしてしまいました。

世の中、何が起こるか本当にわかりません。しかし、今回のヒアリングは日米4つの学会で発表され、出版もされるとのこと。少しは当社もお役に立てたのかなとは思っております。