ベンチャー企業社長の挑戦、そして苦闘

サン・アクト株式会社というベンチャー企業の社長が語ります。

取り締まり役よりも、取りまとめ役

過日、私が関係する団体の会合に出席したのですが、その場で、ある企業の社長からお話を頂戴することができました。ある分野のFC展開で日本最大の上場企業トップの方です。その社長は本業だけではなく、まったく関係のない業種の企業再建や学校再建などにも数々の成功をおさめている方で、非常に参考になるエピソードを聞かせていただきました。

この社長いわく、ある会社のトップの肩書きが「代表取締役会長兼社長」という人がおられて、結局、どっちなのですかと聞いたら、すごく怒られたことがあったそうです。言われてみれば、今は少なくなっていますが、数年前は代表取締役相談役、代表取締役会長、そして代表取締役会長兼社長といった感じで、とりあえず多数の代表取締役が大手企業には存在していました。もしかしたら代表取締役顧問という肩書きもあったかもしれません。

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年齢や世代交代という名目で社長を引退し、会長へ、そして相談役へと少しずつ移行していく流れが日本の伝統的な形なのですが、一時期はこれらの肩書きすべてに代表取締役という代表権が付与されていたわけです。換言すれば、企業の意思決定の中核を担う「代表取締役社長」に実質的な権限はなく、その社長の先輩に該当する会長や相談役の権限が社長以上にあったとも言えます。代表取締役社長は、会長や相談役に会社を代表して「取り締まられていた」わけです。

現在でこそ、企業の様々な不祥事や事故などの備え、コーポレートガバナンス強化の一環として機能しているかどうかはともかく社外取締役の起用など、経営体制にも変化の兆しは見えてきています。

しかし、今回、お会いした社長がある企業の再建を依頼された当時は、まだまだ日本の古い体制・体質が残っていた時代でした。そしてこの社長はその当時から、この古い体制や考えが企業を弱くしている大きな要因であると見抜いておられました。

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再建を依頼された企業は、大手企業二社が折半して出資してつくられた会社でした。再建前までは、二社から均等に役員が派遣され、代表取締役社長と代表取締役会長が二社で交代で運営されていました。

そこで、再建にあたって、まず動かれたことが、

取締役ではなく取りまとめ役にふさわしい人物を一人、欲しい

と二社に依頼されたことなのです。

取り締まること、監視することではなく、企業を取りまとめることに手腕を発揮できる人間がまず必要であるということです。再建先の企業には当時、この会社を「取りまとめる能力」のある方が役員として存在しなかったとも言えます。

その後、二社の中の一社から、取りまとめ役にふさわしい、40代後半の方が派遣され、法的には代表取締役社長として就任されたとのことでした。そして再建先の社員の中から数名、社内では取締役補佐という肩書きで取締役が就任し、再建先の企業の役員構成が固まりました。

社長の話によると、取りまとめ役に任命された方も優秀だったそうですが、取締役補佐という社内の生え抜きの方々が、大きな権限とリスクを同等に背負い、素晴らしい活躍をされたそうです。そして数年後には黒字に転換し、取締役補佐といった肩書きそのものを無くし、見違える程の企業体へと変化したとのお話でした。

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代表取締役」という肩書きは、様々な企業内外に目を向け、取り締まる役割を果たす象徴と言えます。しかし、取り締まることだけでなく、まずは取りまとめることができるかできないかによって、企業体制は大きく左右されるのだなということが良く理解できた今回のエピソードでした。

代表取締役は、企業を取り締まる以前に取りまとめる人間であり、取りまとめる人間は多数では困りますが、複数、存在しても良いのではと私は思います。CEOや社外取締役も否定はしませんが、「代表取りまとめ役」が存在しない企業は、これからの時代は勝ち組にはなれないのかもしれません。

ちなみに、今回、ご紹介した社長は、今年の株主総会代表取締役社長から取締役会長に就任され、二年後には取締役でも何でもない、「人生相談役」たるものに就任を予定されているそうです。最後までユニークな方のようです。