ベンチャー企業社長の挑戦、そして苦闘

サン・アクト株式会社というベンチャー企業の社長が語ります。

台風と景気、無念、そして「生産者」と「消費者」

 当社が最初に開発した樹木関連の商品は「青森県の岩木町」というところで無農薬リンゴを栽培されているある農家の方と共に開発されました。 私も岩木町から車で20分程度の弘前市で、初めての津軽弁と格闘しながら、独身時代から2人の子供が生まれるまでの数年間を過ごし、開発、そして営業に走り回っていた場所です。ご興味のある方は、「無農薬リンゴ、無農薬りんごの開発までの秘話」をご覧下さい。  さて、過日の台風18号、全国各地に被害を与えながらも、青森県も直撃されました。そして青森県の最大の産業である「リンゴ」の多くが落下しました。今、知り合いの青森のリンゴ農家には、電話をかけることはできません。「かける言葉が無い」からです。  真冬の豪雪状態の2月頃から枝の剪定を開始し、様々な手入れを秋まで行い、やっと「商品としてのリンゴ」ができる直前に、一夜にして台風によって、ゼロになった心情を思えば。一晩で一年かけた努力としての数百万円がゼロになったわけです。しかし、地元の現状を知りたく、青森の知り合いの地元の印刷業者さんに電話しました。印刷業者さんも「かける言葉が無い」とのお話でした。  「台風と景気、そして無念」、報道では、リンゴが栽培されている総面積の約76%が被害を受けているとされていますが、印刷業者さんは、イメージとしては、もっとひどいというお話でした。そして友人のリンゴ農家をなぐさめるため、一晩、飲み明かされたそうです。イオンや青森県のスーパーが落下した「落果リンゴ」を販売されています。この多くはリンゴ農家さんが落ちたリンゴを拾い集め、農協に運び、そこから流通されます。しかし、私といっしょに開発していただいた「無農薬リンゴ農家」は、もちろん農協には加盟していません。また、通常の栽培をされている方のリンゴ農家の方々で農協に入っていない方(独自販売ルートを持っている)は、多数おられます。こういった方々は、上述したように、一夜にして、一年の努力がゼロになってしまったわけです。  そして、冷静に考えなければいけないこと。  青森県をはじめ、農業経済で成立、依存している自治体は、今回のように農業被害が生じると、農家の方だけでなく、自治体全体に影響を受けることになります。知り合いの印刷業者さんも、リンゴ農家のリンゴジュースのラベルや販促用のパンフを作成されています。また地元のホテルの結婚式や飲食店も、多くは農家の方々がお客様です。換言すれば農家の景気に依存・左右される状況にあるわけです。特に中小企業の方々は。  農業が衰退すれば、その地域全体の景気が衰退する。  台風というリスク、そして農業に依存している、あるいは依存せざるを得ない地域、そのような場所では様々な悲しいドラマが生まれます。国家として農業をどうするか、あるいは自治体としてどうとらえるか。様々なマクロ的なアプローチや取組みがなされているとは思います。今回の私のエントリでは、この点について問題提起はしません。ただ、当社の商品開発を数年かけて共に歩んできた無農薬リンゴ栽培農家との、あの若かった頃の思い出と、彼の今の気持ち・心情を考えると、私は何もできないだけに無念です。  台風で落ちたリンゴや浅間山噴火で灰をかぶったキャベツを流通関係の方が販売されていること、そして消費者にとっても話題になっていることも報道されています。しかし、その裏には、「自然相手に土日も関係無く、一年間苦労をかけておられる「生産者」が必ずあること、そして、農業とまったく接点の無い方々に、このような現実があること」を知っていただきたいと思います。